コールアカデミー関西OB会演奏史
年月日 | 演 奏 会 | 会 場 | 出場人数 | 演 奏 曲 目 |
2008.10.10 | 田舎のモーツァルト音楽祭 | 穂高東中学校 | 18 | 第二全曲; 天上沢、夏雲、安曇野。 |
2007.8.25 | 尾崎喜八碑前の集い | 富士見町コミュニティ・プラザ | 26 | 全三部作 |
2007.8.18 | 特別リサイタル2007 | 森ノ宮APIO小ホール | 全三部作 | |
2007.6.10 | 大阪府合唱祭 | 高槻現代劇場大ホール | 13 | 「天上沢」「野辺山ノ原」 |
2007.5.27 | 第27回ANCORの会 | 大阪国際交流センター | 17 | 抜粋 |
2006.6.24 | 大阪府合唱祭 | 貝塚市民文化会館 | 第一よりⅠ,Ⅱ,Ⅵ | |
2006.5.28 | 第26回ANCORの会 | 大阪国際交流センター | 18 | 第一(自家版CD「喜八ベスト」採録 ) |
2004.11.28 | 京大グリーOB合唱団ファミリーコンサート【賛助出演】 | フェニックスホール | 第三 | |
2003.8.3 | アンサンブル葉音コンサート【賛助出演】 | 西宮プレラホール | 16 | 第三(自家版CD「喜八ベスト」採録) |
2003.6.22 | 大阪府合唱祭 | 貝塚市民文化会館 | 12 | 第三より |
2003.5.18 | 五つのOB男声合唱の集い(第23回ANCORの会) | 大阪国際交流センター | 17 | 第三 |
2002.5.19 | 五つのOB男声合唱の集い(第22回ANCORの会) | 大阪国際交流センター | 15 | 第二 |
2002.2.23 | 関西OB会25周年リサイタル | 神戸市産業振興センター | 17 | 第二(自家版CD「喜八ベスト」採録) |
2001.10.4 | バッカス・フェスタ | 伊丹ホール | 12 | 第二より「雪消の頃」、「田舎のモーツアルト」 |
1998.1.31 | 20周年記念コンサート | 音楽の友ホール | 第一 |
ベスト版CD
演奏:コールアカデミー関西OB会
指揮:松井義知
音源:
No. | 会場 | 演奏日 | |
(第一) | 第26回ANCORの会 | 大阪国際交流センター | 2006.5.28 |
第二 | 関西OB会25周年リサイタル | 神戸市産業振興センター | 2002.2.23 |
第三 | アンサンブル葉音コンサート | 西宮プレラホール | 2003.8.3 |
編集:北川
男声合唱組曲 「尾崎喜八の詩から」 (第一)
冬野
最後の雪に
春愁
天上沢
牧場
かけす
男声合唱組曲 「尾崎喜八の詩から・第二」
Ⅰ. 雪消の頃
Ⅱ. 郷愁
Ⅲ. 盛夏の午後
Ⅳ. 田舎のモーツァルト
Ⅴ. 夕暮の歌
Ⅵ. 野辺山ノ原
男声合唱組曲 「尾崎喜八の詩から・第三」
1.安曇野
2.和田峠
3.夏 雲
4.馬籠峠
5.夜をこめて
■ 安曇野
春の田舎のちいさい駅に
私を見送る女学生が七八人
別れを惜んでまだ去りやらず佇んでいる。
彼女らのあまりに満ちた異性の若さと
その純な こぼれるような人なつこさとが、
私に或る圧迫をさえ感じさせる。
私はそれとなく風景に目をさまよわす。
駅のまわりには岩燕がひるがえり、
田植前の田圃の水に
鋤きこまれた紫雲英の花が浮いている。 ←紫雲英(げんげ)
そしてその温かい水面に、ようやく傾く太陽が
薄みどりの靄をとおして金紅色に照りかえし、
白い綬のように残雪を懸けた常念が
雄渾なピラミッドを逆さまに映している。
絵のような烏川黒沢川の扇状地、
穂高の山葵田はあの森かげに、 ←穂高(ほたか)、山葵田(わさびだ)
彫刻家碌山の記念の家は
こちらの山裾にある筈だ。
いずこも懐かしい曾遊の地と
暮春安曇野のこの娘ら……
私の電車はまだ来ない。
■ 和田峠 (押韻十四行詩)
上の諏訪、下の諏訪かけ
桃、桜、花さく春を、
山高く、ここ和田峠、さるおがせ錆びし青色。
岩の間に節分草に
いじらしさ添うる春の陽、
そが上の芽立ちの枝に、
歌潔し、一羽のあおじ。
わが性の石を愛ずれば、
黒曜のかけらいくつか、
拾いてぞ手にして立つを
真似てけん、兄と妹の
山越ゆる幼な同胞、
彼らまた、石をからから。
■ 夏 雲
雷雨の雲が波をうつて
まくれるやうに遠ざかると、
その後からつやつやと目にも眩ゆい碧瑠璃の大空。
そして眞赤な熱線を射そゝぐ
七月高峻の太陽だつた。
殘雪をちりばめ 這松をまとつて
びつしょり濡れた大穂高の岩の楼閣、 ←大穂高(だいほだか)
青い宇宙のそよかぜに染まり、
それ自身天體のやうな峨々たるかたまり。
この現前の偉觀が人間私を壓倒した。
眼下をうがつ梓の谷に
なごりの霧は羽毛のやうにもつれてゐるが、
乾ききつた安曇野は夕立の雲を集めて、
岩の幔幕 霞澤のかなたに
その雷頭が白金のドームのやうに輝いてゐた。
■馬籠峠 (押韻十四行詩)
草も、木々のもみじの
ほそみちに苔むす巌、 ←訂正KK
たまたまの水は冷たく
張りめぐる霧の蜘蛛の巣。
人たえて通わぬゆえか、
蓼、野菊、分けてもて行けば
靴濡れてズボンもしとど、
山鳥の羽音のどどど。
木曾行きて六日の旅に
いやはての今日の峠路、
晩秋のあおぞら割れて ←晩秋(おそあき)
やがて立つ馬籠の峠、
木曾恋し、実のは明るし、
藤村の里に乳牛。 ←「里に」に再々訂正KK。乳牛(ちちうし)
■夜をこめて
どこか知らないがまっくらな丘の薮地の
灌木の茂みにちぢこまって一夜をあかした。
今にも飛んで来そうな氷柱のような星の下で、 ←氷柱(つらら)
冬の夜どおし風が荒れ、霜が鳴った。
まんじりともできない寒さにときどき眼をあけたが、
鳥目に見えるのは死と恐怖の闇ばかり。
伴侶のからだのぬくみを頼りに ←伴侶(とも)
眼をつぶってもっとしっかり寄り添った。
離れていたら知らぬ間にこごえて死んでしまうだろう。
あおむけに、空をつかんで、固くなって。 ←空(くう)
そうなったら、すべての山々が緑にけむる
はてしない春のよろこびの日は。
高い樹のうろの安全な巣で
かわいい卵を抱く妻のまるい、輝く眼は。
全身のうぶげをふくらませて
いよいよしっかりと枝をつかんだ‥‥‥
*
けれども永遠かと思われた長い夜がとうとう明けて、
思わぬ方角で青と赤のしののめが破れた。
ごうっと吹きわたる一文字の夜あけの風に、
ちちと鳴きかわして日雀の夫婦は飛び立った。 ←日雀(ヒガラ)
やがてまっさきに丘に照らした真紅の太陽が、
一夜の霜を燦とした炎にかえる黎明の前に。
Edited by K.Kitagawa
Dec.23,2002
Revised on Dec.29,2002
Feb.16,2003
安曇野自注
私のような者にでも校歌の歌詞を頼んで来る学校が時どきあるが、富士見にいる間にもよく頼まれた。そういう時私は書く前に必ず一度はその学校まで行って、そこの校庭のまんなかに立って周囲の景色だの校舎その物だのを見ないと気が済まない。だから北海道江別の女子高等学校の場合だけは別としても、その他はどんな山間僻地へもすすんで出かけた。もちろん長野県下が一番多いが。 これも南安曇郡豊科の女子高校へ下見に行った時の事を書いたもので、山も川も聚落も耕地も、その風景はこの妙齢の女子生徒にふさわしく暮春の情緒に満ち満ちてた。駅まで見送りに来た娘たちは皆人なつこく、そう言ってはおかしいが、出来るだけ私に寄り添って歩いた。そして私の乗るべき松本行きの電車がなるべく遅く来るように願っている様子さえ見えた。
あの校歌はまだ歌われているだろうか。しかし今書いたような事をあの時の娘達はもうみんなきれいに忘れてしまったかも知れない。それでいいのだ。それがこの世の常だ。そして私を運び去るべき車もやがて来るだろう……
豊科高等学校
一 日の本の国のまなかに
山秀で水もさやけき信濃路や
その安曇野の朝夕を
ゆたの実りの豊科に
いらかそびえて窓清く
立てる学舎われらの母校
二 桜ばな霞む里わに
げんげ咲く春も深雪のアルプスや
その品高き美の性に
真澄む叡智をこめてこそ
玉の姿は成るなれと
教へみちびく貴き母校
三 いにしえは遠くたづねつ
新しき時の進みに遅れめや
そのたくましき理想もて
学ぶわれらの春秋を
照らす故郷の日のふかり
今日も浴びたり美わし母校
【現アカデミカコール所属Aさんの提供による。多謝!】
(参 考)
平成15年4月16日
多田武彦作曲合唱組曲「尾崎喜八の詩から・第三」
1.安曇野
季節:春それも暮春(晩春)、山地であるため我々の住む太平洋側の平地では初夏(五月頃)か
碌山記念館:荻原守衛(碌山)は日本近代彫刻の雄で、30歳の若さで亡くなった。20歳余で渡米、更にフランスに渡り絵画・彫刻を勉強、その間高村光太郎(詩人、彫刻家)と交流を持ち、ロダンとも会い作品を激賞されている。
また詩人尾崎喜八にとって高村光太郎は尊敬していた先輩であったから、何故「碌山記念館」が詩に読み込まれているのか 高村光太郎がキーワードになる。
「自註 安曇野」によると詩人が富士見高原隠棲時代に豊科女子高等学校(現在の豊科高校)の校歌の作詩を依頼され、詩作前に習慣としていた学校周囲の視察(観察かな?)の帰途の状況(南豊科駅頭での)を歌ったもの。自然詩人と称されるように周辺の風景を色彩豊かに歌いあげ、見送ってくれた純真無垢な女学生との心温まる交流(交歓)が感じられる。同時に乗車予定の電車(一時的な別れ)と人生の最終列車(永遠の別れ)をダブらせながら待つ詩人の姿は哀愁を漂わせる結びではないだろうか。
2.和田峠
季節:晩春(安曇野の暮春よりはもっと遅い時季)
穂高町より南東に30キロ程下がった所にあり、山梨県境に近く、八ヶ岳からも30キロ程度。詩人が7年程住んだ富士見高原から最も近い。(標高1531m)
この和田峠は旧石器人、縄文人が使っていた鏃(ヤジリ)の原料である黒曜石の原産地、それも質が高く日本の中心地であった様だ。
旧制中学校(京華商業)5年間 英語、作文、理科は特に優秀な成績であったといわれる詩人は後日気象観測なども行い所謂博物学(動植物、鉱物、気象、天文などを網羅)に造詣が深かった。
4曲目の「馬籠峠」と共に押韻14行詩として作られている。欧米の詩歌を深く研究しそれを実践もしていた。そういう一作品であると同時に、リズムを重視したからであろうか 完成度の高い口語自由詩を歌った詩人には珍しく五七調である。和田峠から一望した景観を一曲目の「安曇野」より更に色彩豊かに歌い、「あおじ」の鳴き声、黒曜石の「かけら」の発する音(からから)を歌い込んだ。そして峠 を越えて行く幼い兄妹を眺めながら詩人は自身の想い出に耽っている。
3.夏雲
季節:夏、雷雲(積乱雲、入道雲)の湧く7月晩夏
雷雨(夕立)が通り過ぎ、雲が割れて碧瑠璃色(透き通った紫を帯びた紺色)の大空が現れると同時に灼熱の太陽から熱線が注がれ、雷雲は遠ざかって霞沢のかなたで稲妻を光らせ雷鳴を轟かせている。実に気宇壮大な景観である。これを詩人は色鮮やかに歌い上げる。大自然の前では人間が如何にちっぽけなものなのかを痛感させられる。
4.馬籠峠
季節:晩秋
島崎藤村は本名を島崎春樹と言い木曽馬籠宿の問屋、庄屋、本陣の三業を兼ねた旧家の出で、日本近代詩の大先達である。
馬籠峠は岐阜県境に近く、穂高町から南南西に90キロほど下った所にあり、南木曽町と山口村の境をなす。(標高790m)
3曲目の「和田峠」と同じく押韻14行詩で五七調。木曽路から馬籠峠へ到る峠路の風景と峠からの360度眺望を歌い上げる。詩人として大先輩の藤村の里を結句として心地よく歌い上げている。
5.夜をこめて
季節:冬(春近い晩冬)
詩人は文学志望と恋愛の二つから父と激しい衝突をして24歳の時(大正4年)に家を出た(尾崎家を廃嫡された)が、大正12年9月1日の関東大震災の時に実家へ駆けつけ両親を助けたことで父と和解成立。
この詩は大正14年の作とされている。即ち和解成立後の作である。単純には、日雀の番が厳しい冬を乗り越えて春を告げる黎明の真紅の太陽を浴び、囀りながら嬉々として飛び立っていく情景を歌い上げた詩である。しかし尾崎家を廃嫡された詩人が愛人の死という悲しみを乗り越え、高村光太郎の紹介で水野実子(みつこ)と結婚し新進気鋭の詩人としてスタートはしたが、先行きは不安で一杯、即ち真っ暗闇、この苦しい時期を乗り切ろうとして夫婦二人が肩を寄せ合って生きていた。それが関東大震災により父と和解が成立し、真っ暗闇は一瞬にして明るく晴れわたった。この詩人自身の心境を日雀の番に托して歌った詩と理解したい。
作曲者多田武彦は数多ある尾崎喜八の詩歌の中から上記5作品を選定し、アレンジすると共に歌の順序を決め作品の内容に合った味付け(作曲)に腕を揮う。
我々演奏者は詩歌の内容と作曲者の意図する所を斟酌して演奏する。そして最終評価を下すのは聴衆の皆さんの役割である。
以上(末 木)
(注)尾崎喜八氏のキーワードは詩人、登山家、博物学に造詣が深い、生前発売されていたクラシック・レコードは全部所有し、傾聴していたほど西洋音楽に造詣が深い、語学の天才(英独仏語をマスター、特に独語は独修)など。
Midiファイル
安曇野 | 和田峠 | 夏雲 | 馬籠峠 | 夜をこめて |
12KB | 8KB | 11KB | 8KB | 15KB |
【現アカデミカコール所属Aさんの提供による。多謝!】
参考サイト
http://kihachi.tripod.co.jp/ リンク切れ(12/01/19)
尾崎喜八文学館
http://www.alles.or.jp/~fujimi/kougen.html
自然と文学の博物館・高原のミュージアム
http://www2.plala.or.jp/kohsaka/sorawomiyo.html#9gatu new
田舎のモーツァルト ― 尾崎喜八・君たちへの想い ―
from 校長講話集 in 高坂邦彦 筐底拾遺
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Theater/1957/...
(未認可版)多田武彦合唱作品データベース
信州山岳ガイド:www8.shinmai.co.jp/yama/guide/ revised(12/01/19)
参考:
和田峠:小県郡和田村と諏訪郡下諏訪町の境にあり、標高は1531m
馬籠峠:南木曽町と山口村の境をなす峠で、標高は790m
http://www8.plala.or.jp/azumino-symphony/ revised(12/01/19)
安曇野のシンフォニー
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